アトリエには、中国骨とうの硯が鎮座していたり、 ヨーロッパのアンティックな品々があったり。 独特の耽美な雰囲気をかもし出していた。
壁に一点、王家の紋章をみる。
いや、パレットだ。王家の紋章と錯覚させたパレットが、壁にかかげられてある。
35年もの年月を、えいえいと使いなじんだパレットの周りには、
10センチ前後にうずたかく盛りあがった色調合の跡が、絵具の層が、
山脈をつらねたようにとり囲んでいる。
期ごと色変わりに地層を刻んだかにみえて、
番洋が刻んできた画歴の、証明にちがいない。
目下、200号の大作にとりかかっていた。
サングラスをはずして、制作する。
でも、右眼は、ずっと閉じている。
室内でも光線まぶしく、閉じているほかない。
けれど、隻眼となって、画風は一転した。
両眼が健全だったころには、決して産みだせなかった表現を、彼はいま産みだしていた。
なに、それは隻眼だけのものではない。
「隻眼と心眼」があわさった、相乗効果とみえる。
そう、そうなのだ。失明した右眼は、”心眼”となって、再生されたようだ。
奥深く内面をみつめた心象を、詩的に抽象的に画面構成してゆく。
色づかいの、透明感あって鮮烈なブルーとレッドを編みだして、
作品の特徴、番洋カラーとなっている・・・。
|